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尾崎紅葉と列車で旅する日本海・信越本線(後編)

 天気予報は全国的に良い天気だというのに、柏崎は朝からすっきりしない曇り空。昨日みたいに午後から回復することを期待します。
さて、尾崎紅葉との列車の旅も、いよいよ米山峠を通り過ぎていきます。米山トンネルと同じく難しい文語の連続ですが、何とか読めるように訳しました。

【中編より続く】
「たとえば自分が、豪傑な武者になった気分で、群がる敵を物の数ともせず、当たるを幸いに一太刀ずつ片っ端から撫で斬りにして進むとしたら、こういうものだと思えるように。しかも、左手には日本海で、敵が逃げまどう道にも荒磯の波が、とうとうと寄せては返して、ドーンと勝利の声を上げるかのように。右手には険しい絶壁が続き、日本に二つとない名峰の米山がそびえて、もう敵は逃げられないぞと。そんな想像をしていたら、あまりにも興奮して、体が踊り出すのであった。ここを通過すれば、汽車を嫌っている私も、汽車に乗っていたことさえ忘れ、好きではなかったトンネルも、この場合はとても楽しみになっていて、今さら「うつ病」などと言っている場合ではなかった。」
【尾崎紅葉「煙霞(えんか)療養」黒崎訳】

 写真は、今朝、撮影したものです。線路は廃線になりましたが、景色は紅葉が見た120年前とほとんど変わっていません。私が立っている場所が、8つあるトンネルのうちの3号トンネル。正面が4号トンネルの入り口、奥の岬が5号トンネルで、その先が笠島駅になります。まさに次々とトンネルが姿を現す感じがわかるかと思います
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 紅葉の「煙霞療養」では、この後「柏崎を過ぎれば、次第に海から遠ざかって、長岡を過ぎ三条に入れば(後略)」【黒崎訳】と、一気に三条まで行ってしまします。紅葉が、海と断崖の狭間を走る鉄道にどれだけ心を動かされたか、おそらく今見たばかりの景色を忘れないうちにと、必死に書き綴ったのでしょう、柏崎~三条間の描写は、残念ながら何も書かれていません。今なら、さながらスマホでカシャ!で、Facebookにupして、「いいね!」でしょうか。どんどん情報が流されていく感じです。紅葉のおかげで、じっくりと時間を捕まえて、古書を何度も読み返す機会をもらえて、うれしかったです。120年の時空を超えて、32歳の尾崎紅葉君へ、ありがとう。


by kurosakiH | 2017-03-19 08:25 | 信越本線開通120周年